SDGsの節目にあたって

2023.09.19

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企画部 参事役 松山 剛士

はじめに

今年は、SDGsが策定された2015年から達成期限の2030年までの「中間年」を迎えます。今月、国連では4年に1度のSDGsサミットが開かれ、各国首脳による加速化に向けた議論が行われます。日本では6月に開発協力大綱が改定され、SDGsへの取組の強化が明記されました。今年はSDGsの節目の年といえます。

SDGsの現状

SDGsの進捗はかなり厳しい状況です。国連広報センターのHPでは「COVID-19のパンデミックの影響によって、極度の貧困の削減において30年続いた着実な前進が止まるとともに、極度の貧困下で暮らす人々の数がこの30年で初めて増加している」とあります(リンク)。「データを確認できる目標のうち12%が順調な進捗を示し、30%は進捗がないか悪化している状況。2030年までの達成は危機的状況で、残り7年で行動の加速が必要」との報告もあります(リンク )。 国連持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)の報告書では「3年連続、SDGs達成に向けた進捗は後退した」とあります(SDSN Japan)。世界で起こる武力紛争の数は1945年以降最も多くなり、世界の難民・避難民の数は1億1000万人を超え史上最多となりました。食料・エネルギー価格の高騰で特に開発途上国が大きな影響を受け、債務危機に陥る国が増えています。「誰ひとり取り残さない」ことが難しくなってきているのだと思います。

進捗の遅れの原因は「複合的な危機」にあると指摘されています。新型コロナウイルス感染症、気候変動、紛争など、1つの課題が複数の課題に連鎖したことで引き起こされています。これらの危機は、日本を含め世界に大きな影響がありますが、とりわけ開発途上国への影響は深刻になってきています。

SDGsの進捗確認は、毎年7月に行われる国連ハイレベル政治フォーラムという会合で行われています。今年7月の会合にJICAも参加しました。SDGsの達成に必要な資金のギャップはパンデミック前の2.5兆ドルから4.2兆ドルに拡大し、資金動員とさらなる努力へのコミットメントが呼びかけられました。成果文書の「政治宣言」では「資金動員」に加え「変革」が挙げられ、これから達成するためには従来の方法ではなく科学技術の活用や、各国政府の政策でよりSDGsを重視することが必要、という議論がありました。そして、2030年までの達成を絶対に諦めてはいけないという声が多くありました。

SDGsのこれから

ではこれからどうすべきなのでしょうか。それはSDGsの原則に立ち返ることではないかと思います。SDGsの最も大きな価値は、世界共通の目標だけでなく、重要な原則を発信している点にもあると思います。

一つは「総合的」な点です。社会・経済・環境を含む包括的な目標が17のゴールで示されています。一つの課題が別の課題に連鎖するような現在の状況だからこそ、異なる課題をつなげて総合的に解決策を考えるべき、とSDGsはメッセージを発していると思います。

もう一つは「パートナーシップ」です。「途上国だけでなく世界共通の目標」であって、それぞれが「自分ごと」として考え、それぞれの強みを生かして力を合わせることが重要というメッセージを発信しています。パートナーシップとは、資金や知恵を出し合って、共に創っていくという意味で「共創」と言ってもいいかもしれません。それによって達成に必要な「変革」もまた起きていくのだと思います。

JICAの取組

JICAは近年この「共創」に力を入れています。20の課題別事業戦略である「JICAグローバルアジェンダ」を設け、従来の事業をベースとしつつも企業、研究機関、市民の皆さんなど様々な人たちの知恵と力を結集し、化学反応を起こし、共創するための場をつくりながら、途上国の課題解決の目標とシナリオを作って進めています。

JICAが自前で事業を行うだけでない取組も進めています。たとえば、開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォームという活動では、チョコレートを製造する過程で発生しうる児童労働を撲滅するための企業・団体との輪をJICAが事務局を務めてつくり、持続可能なカカオ産業の実現へ貢献しています。

イノベーションを生み出すという点では、社会課題解決ビジネスに果敢に挑戦するスタートアップ企業の支援にも力を入れています。TSUBASAという活動では、日本のスタートアップ企業の支援と中南米とをつなげていますし、Project NINJAという事業ではアフリカの多くの国で、現地スタートアップ企業の支援をし、実際に多くのビジネスの芽が出てきています。私はエチオピア赴任中にProject NINJAの起業家の皆さんとお話ししたのですが、とても若く情熱にあふれ、「この国のこの課題を自分たちの持つ技術で変えたい!」と熱弁をふるう姿にとても感激しました。

「若い方々」と言えば、7月の国連ハイレベル政治フォーラム会合では、どの会合でも若い方々の発言の機会が設けられていました。ある方は若年層を政策の「受益者」としてだけでなく「貢献者」として参画させるべきと主張していたのが印象的でした。また日本の高校生や大学生の方々にSDGsのお話をする機会がありますが、その問題意識の高さに圧倒され、また実際に自分なりに行動をしているのを聞くと胸が熱くなります。将来を担う「若い世代」の皆さんの巻き込み、若い世代との共創はとても重要だと思います。

JICAでは途上国の課題を自分ごととしてとらえてもらうため、開発教育にも力を入れていますが、先日は教科書を発行する山川出版社と協力して中高生向けの本「JICA×SDGs」を出版しました。また未来を考えるイベントである2025大阪・関西万博でも、多数の来場者の方々と出展する途上国とのつながりをつくって、特に将来を担う子どもたちに残るような取組を準備しています。

SDGsサミットが開催されるこの機会を、世界の課題を「自分ごと」として考えて、少しだけアクションを起こしてみるきっかけにして頂けると嬉しいです。

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